
車が来ない。
深夜三時、普段なら大型トラックが地響きを立てて疾走しているはずの片側三車線の国道は、まるで世界から全てのエンジンが消え去ったかのように静まり返っていた。
青色に灯る歩行者用信号の光だけが、乾いたアスファルトを冷たく染め上げている。
僕は歩道橋の欄干に両肘をつき、どこまでも直線に伸びる空っぽの道路を見下ろしていた。
遠くのビル群の明かりもまばらで、街全体が巨大な機能を停止した機械のように沈黙している。
いつもなら耳を塞ぎたくなるような排気音やクラクションの喧騒が、綺麗さっぱり洗い流されたこの異様な静寂は、どこか現実離れしていて心地よくすらあった。
ポケットから冷え切った缶コーヒーを取り出し、プルタブを引く。プシュッという小さな破裂音が、遮るもののない夜気の中に驚くほどクリアに吸い込まれていった。
都会に暮らしていると、人は常に何かの音とスピードに追われ続ける。
タイムラインの更新、締切までのカウントダウン、駅のホームを駆け抜ける電車の風圧。立ち止まれば後ろから押され、息をつく間もなく次の秒針が進んでいく。
そんな急かされる日々に息苦しさを感じて逃げ出してきた場所で、僕は今、完全に停止した時間の中にいた。
冷たい缶を口に含み、苦味を舌の上に転がす。
ふと見上げると、排気ガスの霞が晴れた夜空に、普段は見えないはずの薄い星がいくつか瞬いていた。車が走らないだけで、街はこんなにも呼吸を取り戻すのかと思う。
僕たちが必死に急いで向かおうとしている未来の先に、一体何があるというのだろう。
不意に、地平線の彼方から小さな光の粒が揺らめき、微かなエンジンの唸りが夜の底を震わせ始めた。
ゆっくりと近づいてくるヘッドライトの光を見つめながら、僕は残りの珈琲を飲み干す。
ほんの数分間の空白だったけれど、止まっていた心臓の鼓動が、自分の正しいリズムを取り戻していくのを感じていた。







