
スタスタ歩く彼女の背中を、僕は必死で追いかけていた。
街灯がぽつぽつと灯り始めた夕暮れの商店街。すれ違う人々が思わず振り返るほど、彼女の足取りには迷いがなかった。ピンと伸びた背筋、規則正しく響く革靴のヒール音。まるであらかじめ地面に引かれた見えないレールの上を滑るように、淀みなく前へと進んでいく。
「ちょっと待ってくれよ、速すぎるって!」
息を切らして並びかけると、彼女は歩調を一切緩めないまま、横目でちらりと僕を見上げた。
「立ち止まったら、考えてしまうでしょう?」
「何を?」
「諦める理由を、よ」
彼女が抱えている分厚いスケッチブックの端が、風にパタパタと煽られていた。今日、彼女が長年勤めたデザイン事務所を飛び出してきた理由を、僕は知っていた。理不尽なボツ通知、納得のいかない妥協案、そして「現実を見ろ」という上司の冷淡な一言。
人は傷つくと、その場にうずくまるか、あるいは過去を振り返って立ち尽くしてしまう。だが彼女は違った。悔しさに呑まれる前に、とにかく足を前に出すことを選んだのだ。
「どこへ行く気なんだ?」
「次の場所よ。私の描いた絵を、ちゃんと見てくれる人がいる場所」
前を見据えるその瞳には、すでに涙の痕跡など微塵もなかった。夕焼けの赤が彼女の横顔を鮮やかに染め上げ、影が長く後ろへと伸びていく。
スタスタ歩くそのリズムは、まるで彼女自身の新しい鼓動のようだった。迷いを振り落とし、過去を置き去りにして、未来だけを掴み取るための確かな足取り。つられて僕の足も、自然と軽快に前へと踏み出していた。







