
(はあっ、はあっ、乗れたし座れたぞ♪)
発車ベルが鳴り響くホームを滑り込み、閉まりかけのドアをすり抜けた瞬間の達成感たるや、言葉にはできない。
しかも奇跡的に、目の前の端席がぽっかりと空いていたのだ。
乱れた息を整えながら、ふかふかの座席に深く身を沈める。
額に滲んだ汗を手の甲でぬぐい、バッグを膝の上に抱え直した。周囲を見渡せば、吊り革に掴まる乗客たちの疲れた横顔が並んでいる。
この熾烈な朝の通勤ラッシュにおいて、始発駅でもない途中駅から座席を確保できたのは、間違いなく今日の運勢が最高潮である証拠だった。
モーターの唸りとともに電車が滑らかに加速していく。
窓の外を流れる見慣れたビル群の景色すら、いつもより少し鮮やかに見えるから不思議なものだ。
心地よい規則正しい揺れと、程よく効いた冷房の風が、走って熱を帯びた身体を優しく冷ましていく。
「ふう……助かった……」
小さく息を吐き出し、スマートフォンの画面を点灯させた。
乗り換え検索アプリを開き、目的地までの到着時間を再確認する。
この電車にさえ乗れてしまえば、大事なプレゼンの開始時刻には余裕で間に合うはずだ。
あとは目的地の駅に着くまで、資料にざっと目を通しながら優雅に過ごすだけ——。
そう確信して画面をスクロールしようとしたその時、車内アナウンスの電子音が静寂を破った。
『お客様にお知らせいたします。この電車は、特別快速・成田空港行きです。次は終点まで止まりません』
指先がピタリと止まる。
車内の規則正しい走行音だけが、やけにクリアに耳へ届いた。
窓の外を見ると、本来降りるはずだった乗り換え駅のホームが、猛烈なスピードで後方へと流れ去っていくところだった。膝の上で抱えたバッグをぎゅっと握りしめ、冷や汗が背筋を伝い落ちるのを感じながら、心の中で静かに天を仰いだ。







