
今日は空調服が無くても大丈夫だろう。
朝、玄関を出た瞬間のひんやりとした空気に騙され、1QAQ1は充電器に繋がれたままの相棒を置いてきてしまった。
どんよりと立ち込める雲を見て、今日は秋の訪れを感じられる穏やかな一日になると、都合のいい解釈をしてしまったのだ。
その浅はかな判断を後悔するのに、担当する片側交互通行の現場へ到着してから一時間もかからなかった。
午前九時を回った頃、重たく垂れ込めていた雲の切れ間から、容赦のない陽光がアスファルトを直撃し始めた。
雨上がりの湿気をたっぷりと含んだ大気は、照り返しの熱に炙られて瞬く間に巨大な蒸し風呂へと姿を変える。
風はぴたりと止まり、遮るもののない路上には、逃げ場のない熱気が澱のように溜まっていった。
白ヘルメットの縁からとめどなく汗が噴き出し、眉毛の堤防を決壊させて目頭にしみる。
制服の水色のシャツはすでに背中もお腹もびっしょりと張り付き、蛍光色の反射ベストが熱を抱え込んで皮膚をじりじりと圧迫した。手にした誘導棒が、まるで鉄パイプのように重く感じられる。
ふと視線を向ければ、反対側の車線で合図を送る後輩の佐藤が、実に軽やかな手さばきで誘導灯を振っている。
彼の背中は、ファンが唸りを上げて送り込む風によって丸く膨らみ、まるで宇宙服のようだ。
無線越しに「先輩、風があるだけで全然耐えられますね!」と聞こえてくる弾んだ声が、今の1QAQ1には眩しすぎて耳が痛い。
ファンが回転する『ヴーン』という低く頼もしい駆動音。車の走行音に混じってかすかに響くあの機械音が、今の1QAQ1にはどんな名曲よりも美しく、甘美な救いの音色に聞こえた。
腰のあたりを指先で探ってみる。
そこには当然、風を吸い込む丸いファンの感触も、服の内側を駆け抜ける涼風もない。
あるのは、ただ無情に湿り気を増していく制服の布地と、重たい装備帯の締め付けだけだ。
「……次の交代、自販機直行だな」
額の汗を白手袋の甲で乱暴に拭いながら、1QAQ1は迫り来る大型ダンプに向けて誘導棒を大きく振った。
文明の利器を侮った己の驕りを、滴り落ちる汗の数だけ噛み締めながら。







