
なんだか少し寝不足な気がする。今日も立哨中に立ったまま寝落ちしないといいんだけど……。
白々と夜が明けていく洗面所の鏡に向かって呟きながら、1QAQ1は蛇口をひねり、両手ですくった冷水で強引に顔を洗った。
昨夜はベッドに入ってからも妙に神経が尖り、天井の木目を数えているうちに、無情にも時計の針が午前三時を回るのを見届けてしまったのだ。
鏡の中に映る自分の目は血走り、まぶたの裏には鉛を仕込まれたかのような重みがある。
制服に腕を通し、ずっしりとした装備帯を腰に巻き、白手袋をはめるその動作の合間にも、身体の芯がずるずると微睡みの底へ引っ張られていくのを感じていた。
1QAQ1が配属された現場は、一日中ひっきりなしに大型車が出入りする、郊外の巨大物流センターの車両出入口だ。
朝のラッシュが始まると、現場は容赦のない緊張感に包まれる。
十トントラックや大型トレーラーが地響きを立てて滑り込んできては、受付ゲートへと列をなす。
入構許可証の目視確認、車両番号のチェック、敷地内への誘導、そして歩道を行き交う歩行者や自転車の安全確保――。
一つ間違えれば重大な人身事故に直結する現場であり、警備員には常に研ぎ澄まされた周囲への警戒と、鋭い判断力が求められるはずだった。
だが、極度の睡眠不足に陥った脳にとって、この「同じ場所で背筋を伸ばし、直立不動で見張りを続ける」という行為は、皮肉にも完璧な催眠術の舞台装置と化していた。
立哨開始から二時間。案の定、容赦のない強烈な睡魔の波が1QAQ1の頭蓋を揺さぶり始めた。
午前中の柔らかな陽射しが、アスファルトの照り返しとともにじわじわと足元を温める。
時折吹き抜ける生ぬるい風、アイドリングを続けるトラックの重低音、そして遠くの積み降ろしバースから響くフォークリフトの単調な警告音。
それらすべての環境音が、まるで丹念に調合された子守唄のように鼓膜を優しく撫でてくる。
背筋をピンと伸ばし、視線はゲートの前方を射抜いている――フリをしながら、思考の糸はぷつり、ぷつりと途切れていく。
網膜に映る大型ウイング車の白いボディが、ぼんやりと霞んで輪郭を失っていく。
ふっと意識の底が抜け、全身の骨から芯が抜き取られたかのように、膝の力がカクンと抜けて上半身が前のめりに傾いた。
「っ……!」
首がガクンと折れ曲がる強い衝撃と、ヘルメットの顎紐が喉仏に食い込む痛みで、跳ね起きるように現実に引き戻される。心臓が早鐘を打ち、警備服の背中に嫌な冷や汗がつっと一筋流れた。
心臓のバクバクを悟られぬよう、何食わぬ顔で素早く周囲を見渡す。
ゲートの詰所にいる相勤者は無線機のログ取りに追われ、目の前に停車したトラックの運転手も伝票の束に視線を落としていた。
幸いにも、己の醜態は誰の目にも留まっていなかったようだ。
だが、一度脳の奥底に巣食った睡魔という怪物は、そう易々と退散してはくれない。
目を限界まで見開き、深く乾いた息を吸い込んでも、わずか数秒後には視界の端から黒い霧のようなものがじわじわと侵食してくる。
立ったまま眠るという、器用で危険極まりない高等技術を、疲弊した肉体が無意識のうちに習得しようとしているかのようだ。
1QAQ1は白手袋の中で、爪を手のひらに皮膚が破れんばかりに強く食い込ませ、奥歯をギリリと噛み締めた。
さらに装備帯に手をやり、あえて姿勢を正して誘導棒を小刻みに握り直す。
次の交代要員が詰所から出てくるまで、あと四十五分。
ゲートにゆっくりと進入してくる次の大型車を見据えながら、1QAQ1はプロの誇りと己の限界を秤にかけるような、過酷で滑稽な睡魔との持久戦に再び身を投じていった。







