「1QAQ1の趣味は小説を書くこと」
「1QAQ1の趣味は小説を書くこと!」
1QAQ1は泣きながら、暗い部屋の隅で、壊れた蓄音機のように同じ言葉を繰り返していた。
握りしめたペンの先は紙を突き破り、インクが黒い涙の染みを作っている。モニターの青白い光が、ぐしゃぐしゃになった顔を容赦なく照らしていた。
物語を生み出すことは、いつだって救いのはずだった。
白い原稿用紙の上に広がる無限の宇宙、誰にも邪魔されない自分だけの王国。
けれど時折、その世界はあまりに広すぎて、あまりに冷たくて、どこへ向かって走ればいいのか分からなくなる。
誰も読んでくれないのではないか、自分の紡ぐ言葉には一片の価値もないのではないか。
そんな底なしの不安が胸を埋め尽くすと、ただ「これが好きなんだ」と言い聞かせることしかできなくなる。
「1QAQ1の、趣味は……」
掠れた声が途切れたとき、ふっと部屋の空気が揺れた。
机の上に散らばった無数の下書きたち。そこから、小さな衣擦れの音が聴こえたような気がした。
ふと目を落とすと、紙の隙間から、これまで自分が生み出してきた物語の断片たちが、淡い光を帯びて立ち上っていた。
駄菓子屋の店先で木賽を振る、赤い前掛けの少女。 焼き立てのバゲットを抱え、温室のベンチで照れくさそうに笑うパン屋の店員。 雨の喫茶店で、煙草の煙の向こうから古い真鍮の鍵を見つめる探偵。 網棚の上に置かれた、湯気を立てる不思議な白いスープ皿。
彼らはみんな、不完全で、迷いながら、けれど確かに1QAQ1の指先から生まれた者たちだった。誰のためでもなく、ただ「描きたい」と願った瞬間の熱を宿した輪郭。
その幻たちが、泣き濡れた1QAQ1を取り囲むようにして、静かに見つめている。
――ねえ、あなたの書いた世界で、私たちはちゃんと息をしているよ。
声なき声が、部屋の隅々を満たしていく。上手いとか下手だとか、誰かに評価されるとかされないとか、そんなものは後からついてくる影に過ぎない。ただ目の前にある白紙に向き合い、言葉をひとつ置いたときの、あの指先の震えるような喜び。それだけは、最初からずっと本物だったはずだ。
1QAQ1は袖口で乱暴に涙を拭った。
鼻をすすり、新しい原稿用紙を机の真ん中に引き寄せる。指先にはまだ微かな震えが残っていたけれど、インクの乾いたペンを握り直す力には、もう迷いがなかった。
一行目。キーボードを叩く、あるいはペンを滑らせる、そのかすかな摩擦音が静かな部屋に心地よく響く。
紡ぎ出された新しい言葉が、暗闇をゆっくりと押し広げていくのを感じながら、1QAQ1の口元に、やわらかな笑みがこぼれていた。







