
「オーライ!オーーラーーイ!!!」
あの時、大きな声を出してダンプをバック誘導していたのは確かに私です。
でも、まさかあの巨大な荷台が、時空の裂け目に向かってバックしているだなんて思いもしませんでした。
真夏の熱気がアスファルトを歪める、午後二時の国道バイパス工事現場。
ヘルメットの下から流れ落ちる汗を腕で拭いながら、私は両手を頭上で大きく交差させ、運転席のベテラン運転手・山城さんに向けて合図を送り続けていました。
「ピーッ、ピーッ、バックします」という無機質な警告音と、唸りを上げるディーゼルエンジンの重低音。
そこまでは、どこにでもある退屈で過酷な土木現場の日常だったはずなのです。
変化が起きたのは、ダンプの後輪が仮設ガードレールの切れ目を越えた瞬間でした。
空間が、陽炎どころではないレベルでぐにゃりと歪んだのです。
まるで油絵の具を水に落としたかのように、背後の景色が青紫色の渦を巻き始めました。
排気ガスの向こう側、本来なら資材置き場が見えるはずの場所に、見たこともない巨大なシダ植物の群生と、鉛色の空を飛翔する巨大な翼竜の影がくっきりと浮かび上がっていました。
「ストップ! 山城さんストップ!!」
慌てて笛を吹き鳴らし、両腕を振り回して制止を試みました。
しかし、手遅れでした。勢いよく後退した10トンダンプのリヤフェンダーが、渦巻く光の膜を突き破り、そのままズブズブと太古の泥土へと吸い込まれていきます。
「え、ちょっと……」
砂埃が晴れたあと、現場に残されていたのは、ぽっかりと口を開けた空間の穴と、私の足元に転がってきた手のひら大のアンモナイトの化石だけでした。
ダンプも、山城さんも、跡形もありません。
私は硬直したまま誘導棒を握りしめ、青空を見上げました。
今から現場監督にどう報告すればいいのか。
「山城さんのダンプが白亜紀に納車されました」とでも言えば、始末書一枚で許してもらえるでしょうか。
遠くから、白亜紀の湿った風が私の作業着の襟を静かに揺らしていました。








