
お金ないのにカレーライス(大盛り)とトッピングのミニスパイス焼きを頼んでしまって震えている。
カウンター席の端っこで、僕は伝票の数字とスマホの銀行口座残高を交互に見比べながら、冷や汗を流していた。
残高表示は「1,240円」。給料日まで、あと四日。 そして目の前の伝票に印字された合計金額は「1,180円」。
……残金、60円。
何を血迷ったのだろう。
入店した瞬間は「並盛り、トッピングなし。ワンコインで乗り切る」と固く誓っていたはずだった。
しかし、自動ドアが開いた瞬間に鼻腔を直撃したクミンとコリアンダーの暴力的な芳香と、厨房の鉄板から立ち上るジュウジュウという肉の焼ける音に、空腹で麻痺していた前頭葉が一瞬で白旗を上げてしまったのだ。
店員さんの「ご注文は?」の笑顔に、口が勝手に「大盛りで。あ、あとミニスパイス焼きも……」と滑らかに注文を紡ぎ出していた。
「お待たせしました、大盛りカレーとミニスパイス焼きです!」
ドン、と音を立てて置かれた皿は、もはや要塞だった。
皿の縁すれすれまで盛られた白米の山に、黒光りする濃厚なルーがなみなみと注がれ、その頂にはこんがりと焦げ目のついた鶏もも肉のスパイス焼きが、湯気を立てながら鎮座している。
圧倒的なビジュアル。
香ばしい油の匂い。
胃袋が喉を鳴らす一方で、脳内の家計簿係が悲鳴を上げている。
明日からの四日間、僕はどうやって生き延びればいいのか。
水と塩か?
実家から送られてきた乾麺か?
「……食うしかない」
震える手でスプーンを握り直す。
頼んでしまったものは仕方がない。
60円しか残らない未来を嘆くより、今はこの1,180円分の幸福を、胃袋の隅々まで染み渡らせるべきだ。
スプーンを山に突き刺し、ルーと肉を絡めて一気に口へ運ぶ。
ガツンと響く濃厚な旨味と、喉を灼くスパイスの刺激。
じゅわりと溢れる肉汁。
うまい。
悔しいほどに、圧倒的にうまい。
明日からの絶望と引き換えに手に入れた、束の間の贅沢。
僕は覚悟を決め、最後の一粒まで味わい尽くすべく、大盛りの山へとスプーンを猛烈に走らせ始めた。








