
今日は曇りで少し雨。
傘を開くほどでもない、けれどそのまま歩き続ければ確実に肩のあたりがしっとりと湿ってしまうような、曖昧で頼りない微粒子が空を漂っている。
灰色の雲が低く垂れ込めた街は、輪郭を少しだけぼかした水彩画のように静まり返っていた。
僕はジャケットの襟を少し立て、駅前のロータリーを抜けて路地裏の古本屋へと足を向けた。晴れた日のような眩しい陽射しも、土砂降りの日のようなドラマチックな雨音もない。
けれど、世界全体が薄いヴェールに包まれたようなこの中途半端な天気には、どこか人の心を落ち着かせる不思議な静寂がある。急いでどこかへ行く必要も、何かを成し遂げなければならないという焦燥感も、湿り気を帯びた空気の中に溶けて消えていくようだった。
軒先に吊るされた古い雨樋から、ぽつり、ぽつりと規則的な雫が落ちる。
木製の引き戸を引いて店に入ると、乾燥した古い紙の匂いと、微かな埃の香りが迎えてくれた。
外の冷たい湿気とは対照的な、時間が何十年もせき止められたような乾いた空間。店主の老人は帳場に深く座り込み、老眼鏡の奥の目を手元の文庫本から一度も上げようとしない。
棚の背表紙を指先でなぞりながら、ふと足を止める。特に探している本があったわけではない。ただ、この鈍色の日差しと微かな雨粒から逃げ込み、自分の呼吸を整えるための場所が欲しかっただけだ。
適当に抜き出した一冊の詩集を開くと、パラパラと落ち葉をめくるような乾いた音が響いた。
外では、通り過ぎる車のタイヤが濡れたアスファルトをシャーッと撫でる音が聞こえる。何か特別なことが起きるわけでもない、劇的な変化など望むべくもない土曜日。
けれど、この曇り空と微かな雨が作り出す余白の中に身を沈めていると、日々の慌ただしさで擦り減っていた輪郭が、ゆっくりと穏やかに修復されていくのを感じていた。







