
全国チェーンで注文したカレーライスがあんなにもシャバシャバで絡みも味も薄いなんて想像出来るはずがないじゃないですか!
深夜のファミリーレストランのボックス席で、僕はスプーンを握りしめたまま、目の前に置かれた楕円形の白い皿を激しく睨みつけていた。
疲労困憊の金曜日、残業で擦り切れた脳が求めていたのは、舌にガツンと響く濃厚なコクと、喉を灼くスパイシーな刺激、そして艶やかな白米をどっしりと受け止める重厚なルーだったはずだ。
誰もが知る有名チェーンの看板を信じ、メニュー表の「深みとコクの特製ビーフカレー」という文字に最後の望みを託した結果が、これだ。
皿の上で頼りなく広がる褐色の液体は、まるで薄く溶いた泥水のようにさらさらと波打っていた。
スプーンですくってご飯にかけようとしても、粒の隙間を素通りして皿の底へ逃げていってしまう。
「絡み」という概念が完全に欠落しているのだ。
恐る恐る口に運んでみる。
……薄い。
お湯で五倍に薄めたコンソメスープの遠く向こう側に、かすかなカレー粉の亡霊が手を振っているような味の希薄さ。
スパイスのパンチもなければ、玉ねぎの甘みも、牛肉の旨味の影すらない。
舌が必死に「うまみ」を探して迷子になっている。
「調合を間違えたのか? それとも、これは健康を極限まで追求した最新のデトックススープなのか……?」
向かいの席に座る同僚は、山盛りのカツ丼を豪快に頬張りながら気の毒そうに僕を見ている。
「ドンマイ。チェーン店でも、たまに厨房のオペレーションがバグる夜はあるよ」
慰めにもならない言葉を聞き流しながら、僕は卓上の調味料コーナーに目を走らせた。
ウスターソース、醤油、ブラックペッパー、そして七味唐辛子。
この頼りない液体を、僕が知る「カレーライス」という概念へと引き戻すための緊急手術が、今まさに始まろうとしていた。
深夜一時、薄暗い店内でスプーンを構え直した僕の戦いは、まだ始まったばかりだった。








