
エスカレーターで降りる時の感覚。
金属のステップに足を乗せた瞬間、ほんの少しだけ内臓が浮き上がるような、あの微かな重力のズレを僕はいつも意識してしまう。
自分の足で歩くのをやめ、機械の規則的な運動に身体を預けるその数秒間は、まるで現実とどこかの隙間に滑り込んでいくような不思議な浮遊感がある。
夕暮れ時の巨大なショッピングモール。吹き抜けの空間を斜めに切り裂くように伸びた下りエスカレーターに乗り、僕は黒いゴム製の手すりに軽く指を添えた。
一段、また一段と視界が低くなるにつれて、地上階の喧騒が下からじわりと迫ってくる。
買い物袋を提げた家族連れ、楽しげに笑い合う高校生たち、床を磨く清掃員の規則的なモップの音。
それぞれが自分だけの時間を生きていて、僕はそれを空中からただ静かに見下ろしている。
下りるという行為は、どこか諦めに似ている。
上りエスカレーターに乗る時の、未来へ運ばれるようなかすかな期待感とは違う。
重力に従い、元いた低い場所へと着実に引き戻されていく感覚。
週末の終わり、買い物を終えて日常へと帰る人々の背中が、僕の前で等間隔に並んでゆっくりと沈んでいく。
ステップの溝が噛み合い、終着点の黄色いラインが足元に迫ってくる。
タイミングを合わせ、機械のリズムから自分の足の歩幅へとギアを切り替える瞬間。
ぽんと床に踏み出した一歩で、浮いていた身体に再びずしりと現実の重さが戻ってきた。
僕は手すりから手を離し、雑踏の中へと紛れ込んでいく。
少し寂しくて、けれどどこか安心する地上へ、自分の足で歩き出すために。








