
このタバスコで味変必須なシャバシャバの味も旨味も薄いカレーはなんすか、と厨房の奥にいる店長に喉元まで出かかった文句を、僕は冷たい水と一緒に力任せに飲み干した。
カウンターの隅に置かれた赤いタバスコの瓶を掴み、皿の上の頼りない液体に向かって乱暴に振る。
ポタ、ポタ、と鮮烈な朱色の滴が落ち、カレーと名乗るにはあまりに透明度の高い褐色の海に波紋を作った。
三日連続の徹夜明け、僕が求めていたのはこんな「お湯に色をつけただけの何か」ではない。
脳の髄まで叩き起こしてくれるような、暴力的なスパイスと煮込まれ尽くした肉の塊だったはずだ。
しかし、いま目の前にあるのは、具材の旨味すらすべて洗い流されたかのような、哀愁漂うシャバシャバのスープである。
米をすくおうとすれば、ルーは米粒をすり抜けてただ皿の底に溜まるだけで、スプーンの上には頼りなく濡れた白い粒しか残らない。
仕方なく、タバスコの酸味と刺激で無理やり輪郭を捏造した一口を舌に乗せる。
ツンと鼻を突くビネガーの刺激のあとに、うっすらと遠くで香る微かなターメリックの亡霊。
舌が美味いと錯覚する前に、辛さで神経を麻痺させて押し込む作業だ。
これはもはや食事ではなく、胃袋という名の燃料タンクに炭水化物を流し込むだけの純粋な労働だった。
「……味、薄かった?」
不意に、カウンターの向こうからくぐもった声が降ってきた。
顔を上げると、白髪の混じった店主が、申し訳なさそうにお冷やのピッチャーを持って立っている。
「いや、今日仕込み用の寸胴の火加減を間違えちまってな。出すか迷ったんだが……」
バツの悪そうに頭を掻くその横顔を見たら、胃の底に溜まっていた苛立ちが、タバスコの辛味と一緒にすうっと抜けていくのがわかった。
「……いえ、タバスコ入れたら、意外とクセになる味ですよ」
嘘八百を並べ立てながら、僕は二口目を大きくすくい、無理やり笑顔を作って喉の奥へと流し込んだ。
不毛な金曜日の夜を締めくくるには、このくらいの苦笑いがちょうどいいのかもしれない。








